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札幌地方裁判所 昭和53年(わ)246号 判決

本籍

福岡市博多区一、一三五番地

住居

札幌市豊平区真栄三一九番地

医師

比田勝孝昭

昭和三年一一月二二日生

事件名

所得税法違反

検察官

小貫芳信

主文

1. 被告人を懲役一年六月及び罰金三、〇〇〇万円に処する。

2. 右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を、一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

3. この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

4. 訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、札幌市豊平区真栄三一九番地において北全病院(精神科)を経営しているものであるが、所得税を免れようと企て、架空仕入の計上、雑収入の除外及び架空経費の計上をするなとの不正な方法によってその所得を秘匿したうえ

第一、昭和四九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の所得金額が二、五七四万二六四円であり、これに対する所得税額が一、〇二〇万五、八八六円であるのにかかわらず、同五〇年三月一四日、札幌市豊平区月寒東一条五丁目所在の所轄札幌南税務署において、同税務署長に対し、所得金額は二四七万二、二二一円であり、これに対する所得税額は一五万七、四〇〇円であるところ、既に九七五万四、七五五円を源泉徴収されているので、申告納税額は△(マイナス)九五九万七、三五五円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同人の右事業年度の正規の所得税額とその申告税額との差額一、〇〇四万八、四〇〇円を免れ

第二、昭和五〇年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の所得金額が一億二、〇一一万一五六円であり、これに対する所得税額が七、四九六万七、二五〇円であるのにかかわらず、同五一年三月一五日、前記札幌南税務署において、同税務署長に対し、所得金額は五、二〇四万三、七九〇円であり、これに対する所得税額は二、五八三万五〇円であるところ、既に一、五八八万七、二七九円を源泉徴収されているので、申告納税額は九九四万二、七〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同人の右事業年度の正規の所得税額とその申告税額との差額四、九一三万七、二〇〇円を免れ

第三、昭和五一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の所得金額が一億四、三九三万七、九八五円であり、これに対する所得税額が九、二七四万二、二五〇円であるのにかかわらず、同五二年三月一五日、前記札幌南税務署において、同税務署長に対し、所得金額は七、一三〇万八、八五八円であり、これに対する所得税額は三、八七六万九、八〇〇円であるところ、既に一、七一五万四、六八八円を源泉徴収されているので、申告納税額は二、一六一万五、一〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同人の右事業年度の正規の所得税額とその申告税額との差額五、三九七万二、四〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の検察官に対する供述調書二通

一、被告人の収税官吏に対する質問てん末書

一、収税官吏作成の脱税額計算書(三通)、脱税額計算説明資料及び調査事績報告書(九通)

一、押収してある所得税確定申告書三綴

一、証人沢田征人、同荒井秋雄、同高橋竹治郎及び同比田勝英治の当公判廷における各供述

一、久保等、武藤重治及び片桐京子の検察官に対する各供述調書

(法令の適用)

1. 該当法条

所得税法二三八条一項、二項(懲役刑及び罰金刑を併科)

2. 併合罪加重

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(第三の罪の懲役刑に加重)、四八条二項

3. 労役場留置

刑法一八条

4. 刑の執行猶予

刑法二五条一項

5. 訴訟費用の負担

刑事訴訟法一八一条一項本文

(量刑の事情)

租税ほ脱犯は、不正な手段によって納税義務を免れ、租税の公平負担を害し、一般の納税意欲に悪影響を及ぼす点において、厳しい非難に値する犯罪であるが、本件脱税額は三年間で総計一億一、三〇〇万円余りにのぼり、かつそのほ脱率も高く、一方に多からぬ所得の中から誠実に納税義務を果たしている多くの国民の存在を置いて考えるならば、被告人の責任は極めて重い。また被告人は、税務当局の査察が開始されたことを知るや、脱税の事実を否認しただけではなく、証拠隠減行為と受け取られてもやむをえない行動に出ており、この点からも情状芳しからぬものがある。

しかしながら、被告人は多年にわたって医業に携ってきたもので、本件を除いては刑罰法令に触れる非違行為は全くなかったこと、脱税の動機は自己に対して提起されたいわゆるロボトミー裁判の結果如何によっては多額の賠償金支払義務が課せられることをおそれてのものであること、現在では自己の責任を認めて深く反省していると認められること、当然のこととはいえ、現在被告人は、この判決によって科せられる罰金のほかに、本税、重加算税をはじめ脱税額をはるかに上まわる税額の納付義務を負い、既にその一部を納付済みで今後順次納付していく旨約していることなど諸般の事情を斟酌し、かつ、この種事実に対する従来の量刑の傾向をも考慮すると、今直ちに被告人に対して実刑を科することは相当でないので、主文のとおりの刑期・罰金額としたうえ、懲役刑の執行を猶予する。

(裁判官 金築誠志)

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